はじめに
プレシジョン・ベースとジャズ・ベースは、エレキベースの代名詞ともいえる存在です。フェンダー社が60年以上前に開発したこの2機種は、ロックやジャズ、その他あらゆるジャンルで活躍し続けています。両者には見た目や音色、演奏性など、多くの違いがあります。本記事では、これら2大ベースの特徴と違いについて、詳しく解説していきます。
外観と構造の違い
プレベとジャズベには、ボディシェイプやネックの形状など、外観面で大きな違いがあります。まずはそれらの違いから見ていきましょう。
ボディシェイプ
プレシジョン・ベースのボディは、左右対称の丸みを帯びたシンプルな形をしています。一方、ジャズ・ベースのボディは非対称のくびれた形状で、体にフィットしやすい印象があります。
プレシジョン・ベースのダブルカットアウェイスタイルは、持ち運びやすさと安定感のある演奏を実現しています。一方のジャズ・ベースのオフセット・ウェストデザインは、細かな演奏動作を可能にし、動きの自由度が高くなっています。
プレシジョン・ベース
ジャズ・ベース
ネックの形状
ネックの形状も、両者で大きく異なります。プレシジョン・ベースのネックは太めで幅広く、重量感のある作りになっています。一方、ジャズ・ベースのネックはややスリムで細めの作りで、ハイポジションでも操作性に優れています。
初心者の方は、細めのネックが扱いやすいジャズ・ベースがおすすめです。一方、経験者にとってはプレシジョン・ベースの太めのネックも魅力的です。ネックの太さは、好みや慣れによって大きく変わってきます。
プレシジョン・ベース
ジャズ・ベース
ピックアップの配置
ピックアップの構造と配置も、両モデルで異なっています。
プレシジョン・ベース:
- 2つのシングルコイルを分割配置: プレベのピックアップは、1つのシングルコイルを2つに分けて配置することで、ハムノイズを低減しつつ、パワフルなサウンドを実現しています。
- 低音弦側をネック寄り、高音弦側をブリッジ寄りに配置: この配置により、低音弦はより豊かな倍音を、高音弦はよりクリアなアタック感を出すことができます。
- 弦振動を効率よく捉える: ピックアップの位置は、弦振動を効率よく捉えるように設計されており、プレベ特有の太く深みのあるサウンドを生み出します。
ジャズ・ベース:
-
ジャズベースのピックアップ配置は、プレシジョンベースとは異なり、フロントピックアップとリアピックアップの2つが並んでいるのが特徴です。この配置によって、様々なサウンドを作り出すことができます。
- フロントピックアップ: 温かみのある太く丸みのあるサウンドが特徴です。ジャズやフュージョンなど、スムースなサウンドを求める場合に適しています。
- リアピックアップ: 明るく切れのあるサウンドが特徴です。ロックやパンクなど、パワフルなサウンドを求める場合に適しています。
- 両方のピックアップをミックス: フロントとリアのバランスを調整することで、様々なサウンドをミックスすることができます。例えば、フロントを少し多めにすると温かみを残しつつ抜けの良いサウンドになります。
この違いにより、プレベは力強い低音が特徴的な一方、ジャズベは音域の広がりや音作りの幅が広がっています。ピックアップ構造の違いは、両モデルの大きな特徴となっています。
プレシジョン・ベース
ジャズ・ベース
音色とサウンドの違い
ボディやネック、ピックアップなどの構造上の違いから、プレシジョン・ベースとジャズ・ベースは、全く異なる音色とサウンドキャラクターを持っています。次に、その違いについて詳しく見ていきましょう。
プレシジョン・ベースの音色
プレシジョン・ベースは、豊かな低音とアグレッシブなアタックサウンドが特徴的です。ロックやメタル、ファンクなど、パワフルなジャンルに適した音色といえるでしょう。
ただしそのサウンドは、より多様に表情を変えることができます。2つのツマミで音の輪郭を自在に調整でき、ミッドレンジを抑えてスムーズな音色に、あるいはミッドを強調して歯切れの良いサウンドにすることができるのです。
ジャズ・ベースの音色
一方のジャズ・ベースは、ボディの非対称形状と2基のピックアップによって、プレシジョン・ベースとはまた違った魅力的な音色を生み出します。
ジャズ・ベースの音色の特徴は、次の3点にあります。
- 繊細で澄んだ高音域の表現力
- 柔らかくナチュラルな中音域
- しっかりとしたグルーヴ感のある低音域
このように、ジャズ・ベースは音域バランスに優れ、ジャズだけでなくロック、フュージョン、R&Bなど多様なジャンルでも活躍できる万能性が魅力です。
演奏テクニックの違い
音色の違いから、両モデルで求められる演奏テクニックも異なってきます。
プレシジョン・ベースでは、指や手首を使ったパーカッシブな弾き方が効果的です。一方でジャズ・ベースは、指の動きを大切にしたスムーズな演奏テクニックが向いています。
経験を積むことで、お気に入りのベースの特性を理解し、自分なりのテクニックを編み出せるようになるでしょう。楽器を選ぶ際は、テクニック面の違いも考慮に入れると良いかもしれません。
用途とジャンルの違い
音色やサウンドキャラクター、演奏テクニックの違いから、両モデルは異なるジャンルや用途で活躍してきました。その違いについて確認しましょう。
プレシジョン・ベースの用途
プレシジョン・ベースは、次のジャンルで幅広く使用されています。
- ロック
- メタル
- パンク
- ファンク
- R&B
太くパワフルなサウンドが魅力のプレベは、激しいリズムとグルーヴ感を兼ね備えた演奏に適しています。特にロック系の曲では、低音の存在感が曲の骨格を形作る重要な役割を果たします。
ジャズ・ベースの用途
一方で、ジャズ・ベースはその名の通りジャズをはじめ、次のようなジャンルで活躍しています。
- ジャズ
- フュージョン
- ラテン
- R&B
- ロック
ジャズ・ベースは音の表現力が豊かで、複雑なリズムパターンをスムーズに演奏できる点が魅力です。曲のグルーヴを作る低音はもちろん、メロディックな表現も可能な汎用性の高さが人気の理由です。
プレイヤーの個性を活かす
このように、2つのモデルには長所と短所があり、一概に”プレベがこのジャンル、ジャズベがあのジャンル”と決めつけるのは難しいでしょう。むしろ、プレイヤー自身の個性や演奏スタイルを活かすことが大切です。
名手たちも、シチュエーションに合わせて使い分けています。ロック色の強いクリス・スクワイヤ氏はプレベを、ジャズ風味の濃いジャコ・パストリアスさんはジャズベを愛用していますが、それぞれ実に多彩なサウンドメイクを見せています。
初心者におすすめのベース
ここまでの解説を踏まえると、プレベとジャズベではどちらが初心者向けなのか、ひとまず判断がつくと思います。
ジャズ・ベースが向いている理由
基本的に、初心者にはジャズ・ベースの方が扱いやすいでしょう。その理由は主に3つです。
- 細めのネックで指が楽に押さえられる
- 2つのピックアップで音作りの幅が広い
- 弦と指の摩擦が少なく、スムーズな演奏が可能
ただし、個人差もあるので、実際に店頭で実弾して確かめることをおすすめします。
プレシジョン・ベースの取り組み方
一方で、プレシジョン・ベースも無理に避ける必要はありません。シンプルな作りが、かえってサウンドメイクの基本を学びやすい点もあります。
ネックが太めなのは確かですが、きちんと押さえ方のトレーニングをすれば、問題なく演奏できるはずです。上達の近道はないので、最初は地道な練習が重要です。
憧れの一本に出会う
初心者の方は、2機種を実際に手にとってみるとよいでしょう。好みや適正を知れば、憧れの一本に出会えるかもしれません。お気に入りのベースを手に入れれば、モチベーションが上がって上達も早くなるはずです。
購入時は、予算やスペックにも気をつける必要がありますが、ひと手間加えて吟味を重ねたら、きっと素晴らしいベースライフが待っているはずです。
コメント