はじめに
さて今回は フェンダージャズ・ベースをfender大名鑑から取り上げてみたいと思います。歴史的にも非常に興味深いものです。
新しいベース開発
1960年1月、フェンダーのエレクトリック楽器シリーズは一大ファミリーに成長していた。 アンプは13製品、 スティール・ギターは11種、6弦ギターは6モデル。 エレクトリックベースだけはいまだに1機種だったが、このプレシジョンベースは業界標準とされ、フェンダーが市場を独占している状態だった。音楽シーンに多大な影響を与えたプレシジョンベースのおかげで、フェンダー・セールス社の業績は上々だった。 そこで1959年、 ドン・ランドールはレオに新しいベース開発を要請する。ドンいわく「市場に送り込む高級モデルが欲しかった。 ジャズベースはレオのアイデアじゃない。強いて言えば、販売戦略の産物かな。 ラインを拡大するための製品と言っていい」 レオ自身はギター史研究家のトム・ウィーラーにこう語っている。 「まあ、 車みたいなものだよ。 スタンダード・モデルを発表してから、 デラックス・モデルを出すのさ。 キャデラック版というわけだ」
ジャズベース特徴
ジャズベースの最初期モデルは1960年3月に登場したが、 価格リストに載るのは同年7月になってから。 スタンダードなサンバースト・フィニッシュは279ドル50セントで、 プレシジョンの標準モデルより50ドル高い ボディーはジャズマスターの流れをくむオフセット・スタイル。 同じくジャズマスターに倣ったモデル名は、明らかにジャズ・ミュージシャンを意識し、 アコースティック・ダブル・ベースのプレイヤーをエレクトリック・ベースに転向させる狙いが込められている。レオのデザインはその目的にふさわしく、クロームめっきのコントロールプレートとピックアップ・カバー トータスシェル・ピックガードといスタイリッシュで洗練されたものだった。新しいネックはナット部分がプレシジョンより細く、弾き心地がかなり違う。 弦同士の間隔が狭いため、速く弾けるようになり演奏性が向上する一方、ネックがボディーに向かって太くなるので、ブリッジ部では通常の間隔が確保された。導入されて以来、このネックは多くのベースプレイヤーから支持されることになる。 ヘッドに張ったロゴはボブ・ペリンの新デザイン。 金色の文字に黒い細線の縁取りという組み合わせで、従来に比べ字体が太くはっきりしている。 ジャズベース以降に発表された全フェンダー製品に付くこのデカールは、後に「トランジション (移行期)」ロゴとして知られるようになる。 トランジション・ロゴは、「スパゲッティ」ロゴと呼ばれる1950年代の旧スタイルが終わり、 1960年代末~70年代の新スタイル 「モダン・ロゴ」 が導入するまでの間に使用された。ピックアップはシングルコイルを2基。直列接続することで、 プレシジョンに1基搭載されたスプリット・ピックアップ同様、 ノイズを抑えるハムバッキング効果を出している。 2基それぞれが持つ8個のポール・ピース (1本の弦につき2個) が、 クリアでパンチのきいた音と力強い中音域の響きを生み出したため、 プレシジョンに替わる楽器としての資格は十分だった。 ピックアップは当初、 円形スイッチを2つ重ねた 「スタック」・ノブ2基でコントロールしていた。 1つのノブがピックアップ1基に対応し、それぞれのピックアップで独立してヴォリュームとトーンを調整できる仕様だったが、1962年初めに廃止され、プラスチック製ノブ3基のシンプルなシステムが採用される。ピックアップ1基にヴォリューム・コントロールが1基ずつ対応し、それより小さなノブが両方のピックアップのトーンをコントロールする方式だ。 ブリッジはプレシジョンと同じだが、 初期モデルには各弦をミュートする新システムが搭載されていた。 フェルトパッドを上下させて弦のサステインを弱める仕組みである。 見栄えのしない装置を隠すために、フェンダーの「F」 を型押ししたクロームめっきの大型ブリッジ・カバーがデザインされた。
しかし、自分の手で直感的にミュートする方を好むプレイヤーが多く、この機能は不評だった。 1963年初めにミュート装置は廃止されたが、それを隠すためのブリッジカバーは1970年代以降まで残された。
ジャズベースの主な特徴を詳しく解説します。
1. スリムなネックとナット幅:
- プレシジョンベースに比べて、ネックが細く、ナット幅(ヘッド側のネックの幅)も狭いのが特徴です。これにより、手の小さいプレイヤーや、ギターから持ち替えるプレイヤーにも握りやすく、スムーズなフィンガリングが可能です。
- ナット幅は通常1.5インチ(約38mm)程度で、プレベの約1.625インチ(約41.3mm)よりも細くなっています。
2. オフセットされたボディシェイプ:
- 左右非対称(オフセット)なウェストを持つボディシェイプは、座って演奏する際に体にフィットしやすく、演奏時の安定性を高めます。これは、当時のフェンダーのギターモデルであるジャガー(Jaguar)やジャズマスター(Jazzmaster)のデザインを取り入れたものです。
3. 2つのシングルコイルピックアップ:
- ネック側とブリッジ側の2箇所にシングルコイルピックアップを搭載しています。これにより、それぞれのピックアップ単体で使用したり、ミックスして使用したりすることで、多彩なサウンドバリエーションを生み出すことができます。
- ネック側のピックアップは、太く甘い低音を、ブリッジ側のピックアップは、シャープで輪郭のある高音域を出す傾向があります。
4. 2ボリューム、1トーンのコントロール:
- 各ピックアップの音量を個別に調整できる2つのボリュームノブと、全体のトーンを調整する1つのトーンノブを備えています。これにより、2つのピックアップのバランスを調整することで、様々なサウンドキャラクターを作り出すことができます。
5. ロングスケール:
- 一般的に34インチのロングスケールを採用しています。これにより、豊かなサスティーンと、引き締まった低音が得られます。
6. アッシュまたはアルダーボディ:
- ボディ材には、中音域が豊かでバランスの良いサウンドのアルダー材や、クリアで抜けの良いサウンドのアッシュ材がよく使用されます。
7. メイプルまたはローズウッド指板:
- 指板材には、明るくクリアなサウンドのメイプル材や、暖かく滑らかなサウンドのローズウッド材が用いられます。
サウンドの特徴:
- ジャズベースのサウンドは、プレシジョンベースに比べて高音域が豊かで、クリアで輪郭のあるサウンドが特徴です。2つのピックアップのバランスを調整することで、パワフルな低音から、シャープで繊細なサウンドまで、幅広い音作りが可能です。
- ジャズ、フュージョン、ロック、ポップス、ファンクなど、様々なジャンルでその汎用性の高さが評価されています。
演奏性の特徴:
- スリムなネックは、手の小さいプレイヤーにも扱いやすく、速いパッセージやテクニカルなフレーズを演奏するのに適しています。
- オフセットボディは、演奏時の快適性を向上させます。
フェンダー・ブランドを世界に広める
1960年、ジャズベースの発表と共に、ドン・ランドールはフェンダー・ブランドを世界に広めるべく大々的なキャンペーンを開始する。戦後のヨーロッパでは、米軍兵士が祖国の話を語ってアメリカの流行を広めていた。ドイツでは早くも1945年にロックン・ロールの種がまかれている。 海の向こうの恋人や友人から送られてくる最新のレコードのおかげで、兵士たちは常に最先端の音楽を聞くことができた。 イギリスでは、1955年にビルヘイリーの「ロックアラウンド・ザ・クロック」がチャート・トップに輝き、 1956年初めにはエルヴィス・プレスリーが華々しくチャートに登場した。 ティーンエイジャーたちはアメリカのロックン・ロールに飢えていたが、 耳にしたサウンドをまねるのは事実上不可能だった。 イギリスではエレクトリック・ギターとアンプを手に入れることができなかったからだ。 1958年、 スペース・エイジのギター、 ストラトキャスターを手にバディ・ホリーがイギリス・ツアーを実施。 多くのティーンエイジャーが初めてフェンダーの楽器を実際に目にし、 新世代の音楽が爆発的な人気となった。1959年になり、 アメリカ製の電子製品および音楽関連品の輸入を禁止する貿易制裁措置がようやく解除される。 鉄は熱いうちに打てとばかり、ドンは同年、ドイツのフランクフルトでフェンダー初の国際ミュージックフェアを開催した。 フェンダー・セールス社にとって大きな一歩であり、ヨーロッパ市場開拓の足がかりとなる重要なイベントだった。 これに先立つ1957年には初の輸出市場としてカナダを確保し、 全製品の配送を実施している。 1960年までにはイギリスとドイツへ配送を開始。 ドンはすぐさま世界的な販売業者ネットワーク作りに着手し、 フェンダー製品を売りたいと願うディーラーの数を増やしていった。間もなくフェンダー・セールス社は、サンタアナの工場から全世界に向けて製品を送り出すようになる。 1960年代初め、ヨーロッバ、オーストラリア、南アフリカ、日本の市場を開拓したフェンダーは、アメリカ最大の楽器輸出業者となった。フェンダーの世界進出はジャズベースに大きな恩恵をもたらした。
フェンダーの名器
イギリスでは、ザ・フーのジョン・エントウィッスルが早い時期からこのベースを愛用。
ザ・ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスのノエル・レディングは、 バンド全盛期の1966年から67年にかけて、 サンバーストのジャズベースを片時も手放さなかった。
アメリカでは、ジャズベースを手にしたボブ・ディランの写真が有名になった。 撮影されたのは1965年、 「エレクトリックに転向」 した直後だ。音楽の方向性でも楽器の選択でも変節したと非難してくるフォークの純粋主義者たちに、この1枚で挑戦状を突きつけたのだろう。 ディランのバック・グループ、 ザ・バンドのリック・ダンコもジャズベースを愛用し、 ビートルズでさえ1969年に『アビイ・ロード (Abbey Road)』 の録音でこの楽器を使った。

)
ベーシストのラリー・グラハムは、愛器のジャズベースで弦を叩くスラップ奏法を編み出し、 スライ&ザ・ファミリー・ストーンが1960年代末に放ったヒット曲に貢献した。
1960年代が終わりを告げる頃、 誰もがジャズベースをフェンダーの名器と認めるようになっていた。 レオはまた偉業を成し遂げ、 プレシジョンと共にベースの双璧と呼ばれる名器を作り上げたのだ。 こうしてフェンダーは、 ベース市場のトップを長く走り続けることになる。
まとめ
ジャズベースは、その誕生から現在に至るまで、音楽の進化と共に歩んできました。多様なサウンドメイク、高い演奏性、そして数々の名手たちの存在が、ジャズベースを単なる楽器以上の、音楽表現の重要な一部として確立させてきました。これからも、その魅力は色褪せることなく、多くのベーシストに愛され続けるでしょう。
コメント