はじめに
さて今回は ジャガー jaguarをfender大名鑑から取り上げてみたいと思います。歴史的にも非常に興味深いものです。
新モデル
1962年春に発表されたジャガー (Jaguar) は、従来製品の焼き直しと言ってもいいものだった。 基本的にはジャズマスターの改造モデルで、ネックのスケールを短くし、 新設計のピックアップと改良したトーン回路を搭載。しかし「フェンダー初」 の仕様が1つ採用されている。スタンダードなジャズマスター・スタイルのブリッジ下に設置した新しいミュート装置だ。 クローム・プレートに付けた小さなフォームラバー(気泡ゴム)が起き上がって弦を下から押さえる仕掛けだったが、 自分の手のひらでミュートするのに慣れていたミュージシャンたちはこの機能を不要に感じ、オフにしておくか完全に取り去ってしまう場合が多かった。 ジャズマスターのデザインに最小限の変更を加えたジャガーは、 ハイエンド機種として売り出された。 価格は379ドル50セント。 これに対し、ジャズマスターは349ドル50セント、ストラトキャスターは259ドル50セント。 廉価モデルのテレキャスターは、わずか209 ドル50セントだった。ジャズマスターを改造したことには理由が2つある。 1つ目はネック・スケールだ。 一部のギタリストから、 ストラトやテレキャスターに比べるとジャズマスターは長くて扱いにくいという苦情が出ていた。 ブリッジをオフセット・ボディーの中央近くに取り付けたせいで、ネックの先端に手が届きにくくなったのだ。 ネックを短くして24インチ・スケールにすればこの問題は解決できる。 また、このスケールはギブソン・ギターで一般的だったため、 ギブソン愛用者を取り込むことができるとレオは考えた。2つ目の理由はピックアップにあった。 ミュージシャンたちはフェンダー・ギターの鋭い切れ味に親しんでいたので、 ジャズマターのピックアップが生む甘く柔らかな響きを物足りなく思った。 こういった声に応えて、ジャズマスターのデザインをアップデートするのではなく、同じスタイルの新モデルが作られたのである。
ジャズマスターと区別
ジャズマスターと区別するため、コントロールノブとスイッチは3個のクローム・プレートに搭載。 デカール部分が広がった大型のヘッドも新しく設計された。 ボブ・ペリンがデザインし直したフェンダーのロゴはジャズ・ベースで初登場したが、6弦ギターに張られたのはジャガーが最初である。新特許の「ワイドレンジ」ピックアップはストラトキャスターのものと似ているが、縁に刻み目のあるクローム金属の台が付いている。レオは開発にあたり、ハム音や弦への干渉を抑えると同時に弦下の磁界を強くしようと考えた。そうして出来上がったピックアップは、 高出力の明るく鋭いサウンドを響かせるが、 従来のフェンダー・ギターに比べると全体的に音が薄い。 電装品では、ジャズマスターと同じくリード/リズムのプリセット回路を搭載。 プリセットをオンにした場合、 トーンとヴォリュームはボディー上部のコントロールパネルに載ったスイッチで調整する。ジャズマスターのピックアップ・セレクターはトグル・スイッチだが、 ジャガーではベースVIと同じく六角形プレート搭載のスライド・スイッチ3基に変更された。2基のスイッチはピックアップのオン/オフ切り替え用。3つ目のスイッチは「ストラングル」スイッチとも呼ばれ、トーン用コンデンサーを通じて高音域の周波数をカットする単純なトーン変更装置である。ジャズマスター同様、ジャガーの標準フィニッシュには3トーン・サンバーストとトータスシェル・ピックガードが選ばれた。 メイプル材のネックにローズウッド材のフラット張り指板 (スラブ・フィンガーボード)を張り付け、ポジション・マークはクレイ・ドット。 しかしフラット張り指板タイプのジャガーは最初期モデルのみで、 発表からわずか数カ月後の1962年夏には、新しいラウンド張りのローズウッド指板に変更された。 生産開始当初からカスタム・カラー・モデルも少数作られた。1962年以前、 カスタム・カラーのギターは特注品であり、 在庫として楽器店の壁に掛けられることはほとんどなかった。 ジャガーはその常識を真っ先に覆したフェンダー製品の1つである。
特徴
- ショートスケールネック: 24インチ(約610mm)の短いスケールは、手の小さい方でも握りやすく、コードチェンジや速いフレーズが比較的容易です。また、弦のテンションが緩いため、独特の柔らかい弾き心地と、わずかにルーズで倍音豊かなサウンドを生み出します。
- 2基のシングルコイルピックアップ: ジャガーのために新開発されたピックアップは、他のフェンダーギターに比べて出力が低く、シャープでエッジの効いた、歯切れの良いサウンドが特徴です。「テケテケ」と表現されることのある、独特のサウンドはサーフミュージックに最適でした。
- プリセット/リードのデュアルサーキット: ジャガーの最大の特徴とも言えるのが、2つの独立したトーン/ボリュームコントロールを持つデュアルサーキットです。
- プリセットサーキット (アッパーホーントグルスイッチ): フロントピックアップのみを使用し、あらかじめ設定した太く甘いサウンドを瞬時に呼び出すことができます。
- リードサーキット (ローワートグルスイッチ): フロントとリアのピックアップを個別にオン/オフでき、マスターボリュームとマスタートーンで音色を調整します。
- ローカットスイッチ: リードサーキットには、高音域を強調し、よりクリアで歯切れの良いサウンドを得るためのローカットスイッチが搭載されています。
- フローティングトレモロユニット: 独特のフローティングトレモロユニットは、滑らかで独特のアーミング奏法を可能にします。
- ミュート機構(一部モデル): 初期のモデルには、ブリッジにパッド式のミュート機構が搭載されており、ワンタッチで弦のサスティンを短くし、「テケテケ」サウンドを強調することができました。現代のモデルでは省略されていることが多いです。
- 独特なボディシェイプとヘッドストック: ジャズマスターに似ていますが、より鋭角でスリムなボディシェイプと、大きめのラージヘッドストックが特徴です。
サウンドの特徴
全体的にシャープでブライト、そしてエッジの効いたサウンドと言えます。ショートスケールとローパワーなピックアップの組み合わせにより、サスティンは短めですが、その分、コードの分離が良く、カッティングなどのリズムギタープレイでその個性を発揮します。ローカットスイッチを使用することで、さらに高音域が強調された、鋭いサウンドを得ることも可能です。
デメリットと言われる点
- 複雑なコントロール: 多くのスイッチやノブがあるため、初心者には操作が難しく感じられることがあります。
- ショートスケールによるテンション感: ロングスケールに慣れたギタリストには、弦のテンションが緩く感じられることがあります。
- ブリッジの安定性: 独特のブリッジ構造は、弦落ちや不要なノイズが発生しやすいと言われることがあります(近年改良されたモデルもあります)。
- サスティンの短さ: サスティンを重視するプレイヤーには物足りなく感じる場合があります。
サーフ・ギターの代名詞
新登場のジャガーを即座に歓迎したのは、 インストゥルメンタル・サーフグループだった。 ジャガーは彼らが求めていた音を響かせるだけでなく、形もスタイルもサーフ・ミュージックにぴったりだったのだ。 波のうねりを連想させるボディー・シェイプと自動車スタイルの派手なクローム部品を備え、フォーム・グリーン、ソニックブルー、キャンディー・アップル・レッドに輝くジャガーは、サーフ・ギターの代名詞になり、 若いギタリストたちをとりこにしした。
ジャガーの信奉者として最も有名なミュージシャンの1人に、ザ・ビーチ・ボーイズのカール・ウィルソンがいる。
彼はバンドの初期、ボディーとヘッドをオリンピック・ホワイトで仕上げたジャガーを愛用していた。 間もなく、ザ・ビーチ・ボーイズのようなバンドがこぞってカスタムカラーのフェンダー楽器を注文し、グループ内で色をそろえるようになる。よくある組み合わせは、 プレシジョン・ベースかジャズベース、ストラトキャスター、 ジャガーまたはジャズマスター、 後方を固めるフェンダー・アンプ一式というものだった。 1960年代初め、 フェンダーの製品は品質、 信頼性、イメージ、どれをとっても群を抜いていた。 フェンダーは60年代のカラフルな雰囲気にマッチする楽器で音楽の世界を彩ったのだ。レフトハンド用のジャガーとジャズマスターが入手できるようになったのは1963年末。同年、プロ向け6弦モデル用に成型タイプの新しいモールド・ケースが導入される。「サングラス・ケース」とも呼ばれるバルウィン製の新ケースは、赤茶色の成型プラスチックで、オレンジ色の豪華な内張りと2つの保管用ポケットが付いていた。 ケースの外側に型押しされたゴールドのフェンダー・ロゴが、中に入った楽器の品質を誇らしげに保証している。 しかし、射出成型法がこういった用途に使われ始めてから日が浅かったため、 新しいケースは重い上に高価なオプションだった。 ジャガー用は80ドル。 スタンダードなトーレックス・カバー・ケースの1.5倍の値段である。
1964年2月、 ジャガー ジャズマスター、ストラトキャスターの3機種にカスタムネック・サイズが導入される。 従来のスタンダードなBネックはナット幅が1と5/8インチ。 それに加えて1と1/2インチの細いAネック、1と3/4インチのCネック、 17/8インチのDネックが選べるようになった。 カスタム ・サイズのネックは小売価格の5%を追加すれば特別注文できたが、実際に作られたA、Cネックの数はわずかで、Dネックに至ってはほとんど注文されなかった。
まとめ
サーフ・ミュージックとフェンダージャガーが絶大な人気を誇ったのは、1962年から65年のわずかな期間だった。 1960年代後半にヘヴィーなロックが台頭し、 サーフ・ミュージックが衰退すると、 この音楽の代名詞だったジャガーを選ぶミュージシャンも減っていった。 たくさんのクローム金属部品と非実用的なミュート機能を付けたギターは、時代遅れに見え始めたのだ。 テレキャスターやストラトキャスターと違い、ジャガーの輝きは時と共に失われていく。 とはいえ、ジャガーもジャズマスターと同じように、フェンダー・ギターに一味違うサウンドとイメージを求めるオルタナティヴ・ロック・バンドに愛された。1960年代の申し子、フェンダージャガーは、 その独特な魅力で今もプレイヤーやコレクターをとりこにしている。
※Fender Made in Japan Traditional Series 最新作 (2025年3月): フェンダー・メイドインジャパン・トラディショナルシリーズの最新モデルが登場。ジャガーを含むクラシックなモデルの魅力を体感できるとのことです。
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