フェンダーブラックフェイス・アンプの歴史
フェンダーのブラックフェイス・アンプは、1963年から1967年頃にかけて製造されたアンプのシリーズです。それまでのツイードやブラウンフェイスと呼ばれるアンプの後継として登場しました。
背景:
- 1960年代初頭、フェンダーはより洗練された、クリアでパンチのあるサウンドを求めるギタリストのニーズに応えようとしていました。
- レオ・フェンダーは、アンプの回路設計を大きく見直し、新しいトーンスタックとプリアンプデザインを採用しました。
- 外観も一新され、黒いトーレックス(外装材)とシルバーのグリルクロス、そして黒いコントロールパネルが特徴となりました。これが「ブラックフェイス」という名前の由来です。
- 1965年にCBS社がフェンダーを買収しましたが、ブラックフェイス期のデザインと回路は1967年頃まで維持されました。そのため、「プリCBS」と「ポストCBS」のブラックフェイス・アンプが存在します。フロントパネルのロゴが「Fender Electric Instrument Co.」であればプリCBS、「Fender Musical Instruments」であればポストCBSとなります。
使い勝手の良い機種
1960年代半ばから末にかけて撮影されたブルースやロック、カントリーバンドのステージ写真を見ると、背景には必ずといっていいほどフェンダーのブラックフェイス・アンプが並んでいます。
ロック・ミュージック史において最も重要なこの時代、 フェンダーはアンプ市場のトップを走っていた。 その首位を脅かしたのは、 ヴォックス、後にはマーシャルのみ。
ローリング・ストーンズを筆頭に、 バーズ、 マディ・ウォーターズ、モビー・グレープ、 ジェファーソン・エアプレイン、さらにはラヴィン・スプーンフル バック・オウエンス、 ザ・バンドなど、 1963年から68年にかけて誰もがフェンダーのブラックフェイスを愛用していたようにみえる。ビートルズも例外ではなく、1966年には 「リボルバ(Revolver)』 の録音でブラックフェイスのフェンダー・ショウマン・アンプを使った。 フェンダー・アンプの中で最も用途が広く使い勝手の良い機種として、 ブラックフェイス・シリーズを挙げる人は多い。
フェンダーブラックフェイス・アンプの特徴
サウンドの特徴:
- クリアでパワフルなクリーン・トーン: ブラックフェイス・アンプの最も特徴的なサウンドです。低音から高音までバランス良く、透明感のあるクリーン・トーンは、多くのギタリストに愛されています。
- 豊かなヘッドルーム: 大きな音量でも歪みにくく、ギター本来のサウンドを忠実に再生します。この特性は、ペダルエフェクターとの相性も抜群です。
- スムーズなオーバードライブ: ボリュームを上げていくと、自然で滑らかなオーバードライブ・サウンドが得られます。決して耳障りな歪みではなく、音楽的な倍音を含んだ心地よいサウンドです。
- 「スクープド・ミッド」: 中音域がわずかに抑えられたサウンド特性を持ち、これにより、よりクリアで煌びやかな高音と、引き締まった低音が強調されます。
- チューブ・リバーブとトレモロ: 多くのモデルに搭載されたスプリング・リバーブと真空管駆動のトレモロは、ブラックフェイス・アンプのサウンドに独特の深みと揺らぎを与え、その魅力を一層引き立てます。特にリバーブは、ウェットで広がりのあるサウンドが特徴です。
デザインの特徴:
- ブラックトーレックスとシルバーグリルクロス: 精悍で洗練されたルックスは、まさに「ブラックフェイス」と呼ばれる所以です。
- フロントパネルのコントロール: 演奏中に操作しやすいように、コントロールノブがアンプ前面に配置されています。
- 堅牢な構造: ツイード期のアンプに比べて耐久性が向上し、プロの現場での使用にも耐えうる頑丈な造りとなっています。
その他:
- ポイント・トゥ・ポイント配線: 一部の初期モデルに見られる配線方法で、パーツ同士を直接配線することで、信号のロスを少なくし、よりピュアなサウンドが得られると言われています。
- 高品位なパーツ: 当時のフェンダーは、信頼性の高い高品質なパーツを使用しており、それがブラックフェイス・アンプの優れたサウンドと耐久性に貢献しています。
これらの特徴が組み合わさることで、ブラックフェイス・アンプは、ロック、ブルース、カントリーなど、様々なジャンルの音楽において、時代を超えて愛されるサウンドを確立しました。
堅牢なビルドクオリティとデザイン
ブラックトーレックスのカバー、 白文字が描かれたブラック フェイスプレート、 数字入りの黒いノブにデザインが変更されたのは、 1963年半ばから末にかけて。
ディック・デイルは後年、 ブラック アンプを作るよう最初にレオを説得したのは自分だと主張しているが、 レオは 「ツアーに何度も持っていくと今までのツイードやブロンド、ブラウンでは薄汚くなってしまう」と嘆く他のミュージシャンの意見も尊重したのでしょう。
JMI (1963年当時、 イギリスのフェンダー販売代理店の1つ)は1961年という早い時期から、 自社製ヴォックス・アンプをブラックの素材でカバーし始めている。 しかしロック・ミュージックが成長して演奏環境が変わったため、より丈夫で傷つきにくいカバーを求める声が強くなってきた。ブラック トーレックスのアンプが登場したのは1963年半ば。 ブロンド・トーレックス/ウィート・グリル・クロスをまとったスタック・アンプおよび12インチ・スピーカー2基のツイン・コンボ・アンプと並んで発売。 最初期のモデルでは、従来のブラウン/ウィート・コンボ・アンプの大半と同じく、 グリル・クロスにフェンダー・ロゴが付いていない。
しかし間もなく、ボブ・ペリンがデザインし直したフェンダー・ロゴにアンダーラインを加え、クローム金属で立体的に仕上げたプレートが付けられる。 また、 新しいシルヴァー・グリル・クロスと、ニッケル・プレートで両端を留めたブラックのプラスチック・ハンドルを採用。このスタイルのアンプはフェンダー史上最も頑丈で、何を投げつけても壊れなかった。 1964年末までに、 フェンダー・アンプ全モデルに同スタイルのカバーを導入。 ただしプリンストンとベースマンには、短期間だけ白いプラスチック製ノブが付けられた。 フェンダー・アンプ全機種の外装が統一されたのは、 ナロー・パネル・ツイード以降初めて。
代表的なブラックフェイス・アンプのモデルと年代
ブラックフェイス期には、様々な出力とスピーカー構成のモデルが製造されました。代表的なモデルと製造年はおおよそ以下の通りです。
- Champ: 5W程度の出力、8インチスピーカー。レコーディングなどでも定番の小型アンプ。(1964年頃〜1967年頃)
- Princeton/Princeton Reverb: 12W程度の出力、10インチスピーカー。リバーブなしとリバーブ搭載モデルがあります。(1964年頃〜1967年頃)
- Deluxe/Deluxe Reverb: 22W程度の出力、12インチスピーカー。多くの名盤で使用された、非常に人気のあるモデル。(1964年頃〜1967年頃)
- Vibrolux/Vibrolux Reverb: 35W程度の出力、10インチスピーカー2基。パワフルでリッチなサウンド。(1964年頃〜1967年頃)
- Super Reverb: 40W程度の出力、10インチスピーカー4基。圧倒的な音量と分離感。(1964年頃〜1967年頃)
- Twin Reverb: 85W程度の出力、12インチスピーカー2基。フェンダーを代表する、クリーンサウンドの定番。(1963年頃〜1967年頃)
- Bassman: ベースアンプですが、ギターアンプとしても人気があります。ヘッドアンプとキャビネットの分離型。(ブラックフェイス期は1964年頃〜1967年頃)
ブラックフェイス時代にはいくつかの新モデルが登場したが、重要なのは1963年末発表のツイン・リヴァーブ (Twin Reverb) です。 85 ワット出力の従来モデル、ツインの基本設計にリヴァーブ機能を搭載したツイン・リヴァーブは、不朽の名機と称えられる。 アンプの業界標準であり、現在に至るまで世界中のステージで活躍する傑作。
ブラックフェイス・シリーズの他のモデルは、スタンダード版とアップグレード版の2種類で提供された。 チャンプの改良モデルとしては、 ヴィブラート機能付きのヴァイブロ・チャンプ。 プリンストン、 デラックス、プロ、ヴァイブロラックスでは、スタンダードモデル以外にリヴァーブ搭載版が登場。 フェンダー・ブラックフェイスのラインアップは万全でした。 あらゆるスタイルのミュージシャンの要求を満たし、すべての機種が素晴らしいサウンドを響かせた。
まとめ
グルーヴ・チューブ社を創設したアンプのエキスパート、アスペン ピットマンは、 デラックス・リヴァーブについて次のように語っている。「無人島に1つだけ持っていけるとしたら、このアンプを選ぶよ。 小型で操作が簡単。 どんな音楽でも最高の音を鳴らすし、音量を上げればオーヴァードライヴして素晴らしいディストーションを生み出すんだ」 この絶賛は、ブラックフェイス時代の全アンプにあてはまる。
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