はじめに:「定番」の先にある真実
「SH-1?ああ、あの定番のやつね」
多くのギタリストがそう言って、ついつい他の”個性的な”ピックアップに目を向けてしまうことがあります。私も長らくそうでした。定番すぎるがゆえに、何か特別なものがあるわけではないのでは?と思い込んでいたのです。
しかし、30年以上も第一線で愛され続けるピックアップには、必ず「理由」があります。
本記事では、「定番」の殻を破り、SH-1 ’59 Modelが持つ真の魅力に迫ります。あなたのギターと相性は良いのか?現代のプレイスタイルに合うのか?高価なヴィンテージPAFとの違いは?これらの疑問に、実機を使った経験と客観的なデータから答えていきます。
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結論:SH-1はこんな人の救世主になる
- 「ヴィンテージの温かみ」を求めているが、30万円のピックアップは買えない
- クリーン〜中程度の歪みで「息づかい」が感じられる音が欲しい
- 1つのピックアップで幅広い音楽性をカバーしたい
正直に言うと、向かない人もいます:
- 徹底的なハイゲインサウンドを追求する方
- モダンメタルの極端なタイトさを求める方
- 極端な高出力を必要とする方
迷っているなら、このピックアップは「基準器」として持っておいて損はありません。
SH-1の歴史:伝説を追いかけて
1959年製Gibson Les Paulに搭載されていたPAF(Patent Applied For)ピックアップ。今や「ホーリーグレイル」と呼ばれ、数十万円の値がつく伝説的存在です。
セイモア・ダンカン氏は、このPAFの魔法のような音色を解明すべく、何百というヴィンテージピックアップを分析しました。その結果誕生したのがSH-1 ’59 Modelです。
特筆すべきは製造方法へのこだわり。当時と同じLeesona Model 102ワインダーを使用し、意図的に不均一なワインディングを再現しています。この「完璧ではない」巻き方こそが、PAFの持つ有機的な音色の秘密だったのです。
製品仕様:技術的側面から見るSH-1
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SH-1はAlnico Vマグネットを採用したハムバッカーで、DCレジスタンスは約8.0kΩ。これは現代の高出力ピックアップと比べると「中程度」の出力です。
このスペックから生まれる音の特性:
- 中域の密度と温かみ – Alnico Vならではの「粘り」
- 自然な低域の広がり – タイト過ぎず、緩すぎない絶妙なバランス
- 甘く伸びのある高域 – 耳障りにならない心地よい輝き
また、ワックスポッティング処理により、高ゲイン時のハウリングを抑制しつつ、ヴィンテージライクなレスポンスを維持するバランスが取られています。
PAFクローンとしての評価:本物にどこまで近づけたか
ギター界では「PAF再現」を謳うピックアップが数多く存在します。その中でSH-1は「PAF系の基準」として広く認知されています。
SH-1の強み:
- 木材の個性を素直に表現する「透明感」
- 弾き手のタッチを忠実に音に変換する「レスポンス」
- どんなギターにも馴染む「汎用性」
もちろん、本物のPAFと比べると若干の違いはあります。特に、ヴィンテージPAFが持つ「経年変化による磁力の弱まり」は再現できていません。しかし、その価格差(数万円 vs 数十万円)を考えれば、コストパフォーマンスは圧倒的です。
音色特性:SH-1が持つ表情の豊かさ
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周波数特性とダイナミクス
SH-1の音色は「バランスの良さ」が最大の特徴です。
- 低域: 太すぎず、緩すぎない適度な量感。特にオープンコードの時に、各弦の音が埋もれない明瞭さを持ちます。ただし、Alnico Vの特性上、低域のタイトさを極限まで求める方には物足りなさを感じるかもしれません。
- 中域: ここがSH-1の真骨頂。単音でも和音でも「存在感」のある中域が、バンドミックスの中で埋もれない芯のある音を生み出します。特に500Hz〜1.5kHz帯域の表現力は秀逸です。
- 高域: 甘さと抜けの良さを兼ね備えた高域。刺々しさがなく、長時間聴いても疲れません。ただ、極端な「キラキラ感」を求める方には物足りないかもしれません。
ダイナミクスの広さも特筆すべき点です。弱く弾けば繊細に、強く弾けば力強く反応する幅広いダイナミックレンジは、表現力を重視するプレイヤーにとって大きな武器になります。
クリーントーンの魅力
クリーントーンでのSH-1は、まさに「息をするような」自然さが魅力です。
ピッキングの強弱に敏感に反応し、弱く弾けば柔らかく、強く弾けば芯のある音に変化します。特に印象的なのは、コードを鳴らした時の「分離感」。6弦全てが明瞭に聴こえながらも、全体としての調和も取れています。
ボリュームノブを絞った時の変化も素晴らしく、9から7に絞るだけで、驚くほどクリアなクリーントーンに変わります。この特性は、1本のギターでさまざまな音色を引き出したいプレイヤーにとって大きな利点です。
歪みサウンドの質感
歪みを加えた時のSH-1は、「上品さ」と「パンチ力」のバランスが絶妙です。
軽い歪みでは、各弦の輪郭が明確に残りながらも温かみのある歪みが得られます。中程度の歪みになると、低弦のパワー感と高弦の歌うようなサスティーンが両立する、まさに「ロック向き」のサウンドに。
ただし、極端なハイゲインでは正直なところ、専用設計の高出力ピックアップには及びません。特に、低弦のタイトさや歪み時の分離感は、SH-4 JB ModelやDuncan Distortionなどに軍配が上がります。しかし、それはSH-1の「欠点」というより、設計思想の違いと捉えるべきでしょう。
実際の使用感:リアルなステージ・スタジオでの体験
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私がSH-1を搭載したLes Paulタイプのギターをバンドで使用した時の体験をお伝えします。
リハーサルスタジオでの印象: バンドサウンドの中で、驚くほど「存在感」がありました。ミッドレンジが絶妙な位置にあるため、ベースやキックドラムと周波数が被りにくく、歪みを深くしなくても音像がはっきり立ち上がります。
特に印象的だったのは、アンサンブルの中での「呼吸」のしやすさ。音が前に出過ぎず、かといって埋もれることもなく、バンド全体の音楽性に溶け込みながらも存在感を主張できる絶妙なバランスでした。
ボリュームコントロールの実用性: ライブ中、同じ曲の中でクリーンとクランチを行き来する場面が多々ありますが、SH-1はボリュームノブの操作に驚くほど忠実に反応します。10から7に絞るだけで、歪んだリフからクリアなアルペジオに変化。これにより、曲中のニュアンス表現の幅が大きく広がりました。
弾き心地の違い: 最も驚いたのは「弾き心地」の変化です。それまで使っていた高出力ピックアップと比べて、弦の動きがよく感じられ、弾いていて気持ちが良い。特に、チョーキングやビブラートの細かいニュアンスが音に反映される感覚は、演奏意欲を刺激してくれます。
ただし、正直に言うと、極端に歪ませたリフでは、低弦がやや緩く感じる場面もありました。これはAlnico Vマグネットの特性でもあり、一長一短です。
他モデルとの比較:どう使い分ける?
TB-59との違い
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TB-59は基本的にSH-1と同じ設計ですが、トレムロ搭載ギター(特にFloyd Rose)用に調整されています。弦間ピッチが広いギターでも、バランスの良いサウンドを実現するための微調整がされているだけで、基本的な音質は同じと考えて良いでしょう。
SH-2 Jazz Modelとの比較
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SH-2は同じPAF系でも、より「現代的」な解釈をしたモデルです。
具体的な違い:
- SH-1:DCレジスタンス約8.0kΩ、より広い周波数特性、中低域に厚み
- SH-2:DCレジスタンス約7.6kΩ、より明瞭な高域、タイトな低域
向いているジャンル:
- SH-1:オールドロック、ブルース、クラシックロック
- SH-2:ジャズ、フュージョン、ファンク、モダンポップ
クリーントーンを多用し、アーティキュレーションの明瞭さを重視するなら SH-2、温かみのあるヴィンテージ感を重視するなら SH-1 が適しています。
SH-4 JB Modelとの違い
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SH-4 JBは、SH-1より約10年後に登場した、より現代的なロックサウンド向けのモデルです。
スペックの違い:
- SH-1:DCレジスタンス約8.0kΩ、Alnico V、バランス重視
- SH-4:DCレジスタンス約16.4kΩ、Alnico V、中高域ブースト
サウンドの違い:
- SH-1:自然な倍音、広いダイナミクスレンジ、素直な音色
- SH-4:パンチのある中域、タイトな低域、歪み時の分離感
SH-1が「どんなジャンルにも対応できる万能選手」なら、SH-4は「ロック・メタル特化型のスペシャリスト」と言えるでしょう。
セッティングのコツ:SH-1を最大限に活かすために
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ピックアップ高さの調整
SH-1の音色は、ピックアップ高さに非常に敏感です。一般的な目安は弦から2〜3mmですが、あなたのギターに最適な高さを見つけることが重要です。
高さ調整のポイント:
- 近づけすぎると: 出力は上がりますが、低域がぼやけ、マグネットの引力で弦のサスティーンが損なわれます
- 遠ざけすぎると: クリアになりますが、細く痩せた音になり、SH-1本来の魅力が失われます
私のお勧めは、まず標準的な距離(低弦側2.5mm、高弦側2.0mm程度)から始め、少しずつ調整していくことです。特に、「弦を強く弾いた時にクリアさが保たれるか」という点に注目して調整すると良いでしょう。
アンプ・エフェクトとの相性
SH-1は様々な機材との相性が良いですが、特に相性が良いのはヴィンテージ志向のアンプとエフェクターです。
アンプ別の特徴:
- Marshall系: 中域の厚みが強調され、クラシックロックの王道サウンドに
- Fender系: クリーントーンの透明感が増し、繊細なニュアンスが表現可能に
- Vox系: 特有の中高域の輝きとSH-1の温かみが絶妙に融合
エフェクター相性:
- オーバードライブ: Tube Screamer系との相性は抜群。中域がさらに強調され、ソロが映える
- ディストーション: RAT系との組み合わせで、パンチのあるリズムサウンドに
- ファズ: Big Muff系との組み合わせは、温かみのあるファズサウンドを実現
特に、当サイトで以前紹介したケンタウルス系ブースター [blocked]との組み合わせは、SH-1の中域の魅力をさらに引き出し、ソロの存在感を劇的に高めてくれます。
向いている音楽ジャンル:SH-1の適性
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SH-1が特に輝くジャンルは以下の通りです:
- 70〜80年代ロック: PAFサウンドを基調とするクラシックロックに最適
- ブルース: タッチの繊細さが表現できる広いダイナミクスレンジ
- ジャズ: 温かみのあるクリーントーンが心地よい
- フュージョン: クリーンからクランチまでの表現力の広さ
- オルタナティブロック: 個性的なコード進行も明瞭に表現
モダンメタルやジェントなど、極端なタイト感や超高出力を必要とするジャンルには専用設計のピックアップの方が適していますが、それ以外のほとんどのジャンルで高いパフォーマンスを発揮します。
まとめ:30年愛され続ける理由
SH-1 ’59 Modelは、単なる「定番」ではなく、「基準」と呼ぶべきピックアップです。その魅力は以下に集約されます:
- ナチュラルで温かみのある音色: 弾き手の個性を素直に表現
- 広いダイナミクスレンジ: 繊細な表現から力強い演奏まで対応
- 高い汎用性: 様々なギター、アンプ、音楽ジャンルに適応
確かに「派手さ」や「個性的な癖」はありません。しかし、その「素直さ」こそがSH-1最大の強みであり、30年以上もの間、多くのプロフェッショナルに選ばれ続けている理由なのです。
高価なヴィンテージピックアップや特化型の現代ピックアップに手を出す前に、まずはこの「基準器」を試してみる価値があります。あなたのギターが本来持つ個性を引き出しながら、温かみのあるヴィンテージサウンドを手に入れたいなら、SH-1は最も信頼できる選択肢の一つです。
SH-1が特に適しているのは
- ヴィンテージサウンドを現代の安定性で楽しみたい人
- クリーンからクランチまで幅広く使いたい人
- ギターやアンプを頻繁に変える可能性がある人
「どのピックアップを選べばいいか分からない」と悩んでいるなら、SH-1から始めてみてください。あなたの求める音の「基準点」が明確になるはずです。





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