アルニコ5・ピックアップ開発
※レスポール大名鑑 1915~1963 写真でたどるギブソン・ギター開発全史より抜粋
1950年代はギターメーカー各社がピックアップ開発に凌ぎを削った時代であり、 レスポール・カスタムにもまったく新しいフロントピックアップが搭載されることになった。 ギブソン社の技術革新がもたらした新デザインのピックアップアルニコ5である。
アルニコ5の特徴はその6本の強力な長方形のマグネットにあり、 そこから生まれるトーンはリッチ
で力強い。 元々は1952年にギブソン社の電気技師、セス・ラヴァーが開発し、 50年代中期の高級エレクトリックモデル (スーパー400、 L-5、 それにバードランド)にのみ搭載されていたピックアップ
だった。セスは一時修理部に詰めていた頃に、 テッド・マッカーティーから、 当時話題になっていたディアルモンド社の新型ピックアップの分析を依頼される。ギブソン社は、 競争力のある新しい何かを欲していた。
もちろん、ウォルト・フュラーが40年代初期に開発した、アルニコ3 (あるいは4) マグネットを
用いたP-90 は素晴らしいピックアップだった。 そのP-90 も1949年には、 ポールピースが固定タイ
プから、マグネットを2つ備えた、マイナスネジ型のアジャスタブルタイプへと変更されていた。 新
たな挑戦への機運は高まっていた。 こうして、 次代の主力モデルであるレスポール・カスタムにアルニコ5を搭載することが決まった。
アルニコ5 フロントピックアップは、ターン数は10,000回 (42番ゲージの銅線を使用)と標準
的ながら、 弦振動を拾うポールピースに着磁したアルニコ5を用いることで出力アップをはかってい
た。 面取りした長方形のマグネットは、他に類を見ないほど個性的だ。 このピックアップの狙いは低域のレスポンスの向上にあり、 そのウォームで美しいトーンを愛するギタリストは多い。
他のアルニコ磁石との比較
- アルニコ2: 磁力が弱めで、よりマイルドで枯れたヴィンテージトーンが特徴です。甘く伸びやかなサスティーンが魅力で、ブルースやジャズで好まれます。
- アルニコ3: 最も磁力が弱く、コバルトを含まないものもあります。低出力で、より柔らかく、繊細なクリーントーンに適しています。
- アルニコ4: アルニコ2と5の中間的な特性を持ち、バランスの取れたトーンで、汎用性が高いとされます。
- アルニコ8: アルニコ5よりもさらに高出力で、よりアグレッシブなサウンドを求めるモダンなロックやメタルに適しています。
アルニコ5・ピックアップの開発者のインタビューと主な特徴
デザイン的には、同時代のグレッチ・ギターにマウントされていたハリー・ディアルモンド社のピックアップ、“ダイナソニック”に近い。 レスはすでに、自分の初期型ゴールドトップにダイナソニックを取り付けていたというから驚きだ。 どちらのピックアップも、アルニコ5マグネットを上下させるアジャストメント・スクリューにバネを巻くという内部構造を持っていた。 ギブソン社の広告では、この新型ピックアップが“驚異的なサステインをもたらす”と謳っていた。
セス・ラヴァー(ハムバッカー・ピックアップの発明者)はこう語っている。

ロブ:ギブソン・ギター用には、他にどんなピックアップを開発しましたか?

セス: 長方形のマグネットを使ったやつがあった。 マグネットが上下に動くんだ。

ロブ:レスポール・カスタム、L-5、スーパー400にマウントされたピックアップですね。

セス: 特注モデルにも使ったかもしれない。 マグネットを上下に動かせるんだ。 ただ、 扱いには注意が必要だった。 とても強力なマグネットだから、弦に近づけすぎると“ドッグトーン”や“ウルフトーン” [不正な共鳴振動のこと。詰まったような音が出る〕 が生じてしまう。
ギブソン社のアルニコ5は素晴らしいサウンドを持つピックアップだったが、弦に近づけすぎない
よう細心の注意を払う必要があった。 長さ11/8インチ(約 2.9センチ)の強力無比なマグネットが、
太い巻き弦の振動を妨害してしまうからだ。そうなると倍音がうまく乗らず、音が美しく響かない。詰まったような余韻のない音になってしまう。 従って、ポールピースは常に、 いわゆる “ウルフトーン”が出ない程度に下げておく必要があった。 正しく使えば充分なヴォリュームは得られたが、それでもバランスには気を遣った。
「それと、長方形のマグネットを使ったモデルがあったな。 あのマグネットは、 それはもう、メチャクチャ強力だった」と、レスが振り返る。「あのマグネットの問題点は、磁力があまりに強すぎて、弦に近づけすぎると弦の振動を止めてしまうことにあった。それぐらい強力なマグネットだったんだ」
アルニコ5・ピックアップの主な特徴
実際には、シングルコイル、ハムバッカー、P-90といった主要なピックアップの形式において、アルニコ5磁石が幅広く採用されています。
それぞれの形式の中で、様々なメーカーが多様なモデルを展開しており、コイルの巻き数、ワイヤーの種類、ポールピースの形状、ポッティング(ワックス含浸)の有無などによって、同じアルニコ5磁石を使用していてもサウンドキャラクターは大きく異なります。
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パワフルでクリアなサウンド: アルニコ5は、アルニコ磁石の中でも比較的磁力が強く、これにより高い出力とクリアなサウンドを実現します。特に高音域に活気があり、明るく抜けるようなトーンが特徴です。
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優れたダイナミクスとレスポンス: 弦の振動を正確に捉え、プレイヤーのピッキングニュアンスを忠実に再現します。強く弾けばパワフルに、優しく弾けば繊細にと、幅広い表現が可能です。
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バランスの取れたトーン: 温かみのあるミッドレンジと、バイト感のある高音域のバランスが良く、幅広いジャンルに対応できます。クリーンサウンドではきらびやかさを、歪ませると力強いロックサウンドを生み出します。
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サスティーン: 比較的サスティーン(音の伸び)も良好で、リードプレイにも適しています。
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汎用性の高さ: ロック、ブルース、ポップス、ジャズなど、様々な音楽ジャンルで活躍します。特に、クラシックロックやハードロックなどで好んで使用されますが、その汎用性の高さから多くのギターに標準搭載されています。
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